子どものときから演歌が好きだったんですけど、
自分でおカネを払ってレコードやCDを買ったりとかいうのは、
あるときまではしていませんでした。
演歌はラジオやテレビで聴くことができるけれど、
マニアックなメタルは買わないと聴けない、
と思っていましたから(インターネットはまだない、もしくは普及してない時期)、
おカネがあればメタルのレコード・CDを買いあさっていました。
しかし、ある作品をきっかけに演歌にもハマっていきました。
それが今回紹介する綾世一美の’93年の全曲集。
amazonには商品画像がなかったので私が所有するものを。
地元の二流私大を出て就職したころに出会った作品です。
パチンコの景品でなにげなくもらったCDが・・・世紀の大傑作だった
このころは時間があればいつも友達とパチンコに行っていました。
いつも行くパチ屋の景品コーナーにはCDがたくさん並んでいて、
私もまだあまりカネに執着がない純朴な青年でしたから、
パチンコで儲かったら換金せずにCDをもらう、ということが多かったのです。
で、「フルーツパラダイス」だったか「ダービー物語」だったか、なにを打った時か忘れましたけど
ものすごい大勝ちをしたときに、たまたま目に入ったのが綾世一美の全曲集。
綾世一美ってだれ・・みたいな感じではあったんですが、
とにかくものすごく勝ったので気が大きくなり、軽い気持ちでもらってきました。
で、家に帰って、全然期待せずにCDプレイヤーに突っ込んでみると・・・
「みちのく挽歌」の凄さにブッ倒れる
トップに収録されていたのは弦哲也先生作曲の「みちのく挽歌」。
この曲にはブッ飛びました。倒れた。
北国の厳しい冬を想像させる、冷たい風が吹きすさぶようなイントロ。
泣きまくりのギターのオブリガート。
抑えていた哀しみがあふれ出てしまったかのような
サビ部分はまさに夫をうしなった妻の慟哭を思わせる。
挿入される「新相馬節」の一節も効果的です。
曲も凄いが綾世の歌唱がまた凄い。
この曲は音羽しのぶや藤あや子、石原詢子なども歌っていますが、
比較するとその圧倒的迫力が際立っています。
藤あや子のバージョンはか弱い女が哀しみに押しつぶされそうになっている感じですが、
綾世の場合はたくましく強い女が耐えに耐えていて、
そんな強い女でも哀しみを抑えきれず血の涙を流している・・ような印象。
YOU TUBEには綾世のオリジナルバージョンがなかったので、
藤あや子のものを貼っておきます。
「能登の海」「丹波越え」も名曲
2曲目「能登の海」3曲目「丹波越え」と、
つらい恋の苦しみをうたう、怒涛の迫力の演歌が続きます。
「丹波越え」のイントロのベースがカッコいい。
この2曲もとにかく聴いていると胸が締めつけられる。
もちろんきちんとうたっているんですけど、
号泣しながら叫んでいるのを聴いているような感覚をおぼえます。
弦哲也先生とデュエットした「道頓堀情話」という
典型的な夫婦演歌という趣の曲も収録われていますが、
綾世一美の真骨頂は人生の艱難辛苦をうたうようなドラマティック演歌だな、
という気がします。
後半に収録されている市川昭介作品での歌唱(彼女の師匠は市川昭介)は、
同じ市川の弟子だった都はるみの影響を感じさせる
高音で派手なコブシをゆらせまくるスタイルで、若いな~という印象。
それはそれでいいけれども、よくいるタイプの演歌歌手・・という感じしかしなくて、
やはり弦哲也作品を歌うようになって唯一無二の存在へ一皮むけたんだな、という印象を受けます。
これほど凄い人が消えてしまったのはほんとうに惜しいことで、
演歌界の損失はとてつもなく大きかったと感じます。
ぜひとも全作品の再発をレコード会社にはお願いしたい!