私がガキだったころに影響されたメタル作品を回顧する記事を久しぶりに。
今回はスイスのCELTIC FROST。
コンピレーション・アルバム「SPEED KILLS」にてはじめて聴いたバンドでした。
→思い出の名盤:スラッシュ・メタルへの傾倒を決定づけられた名作コンピレーション~「SPEED KILLS~THE VERY BEST IN SPEED METAL~」
そこに収録されていた「Into the Crypts of Rays」のカッコよさもさることながら、
そのサウンド、佇まいの邪悪さに完全にノックアウトされ、あわてて購入したアルバムが
今回紹介する「TO MEGA THERION」。
いま聴いても、その独自性がギラリと光る
CELTIC FROSTは、1980年代半ばから2008年まで活動していた(途中一時解散)、
スイス出身のメタルバンド。
のちに発展する「デス・メタル」「ブラック・メタル」のバンドたちに
絶大な影響を与えることになった、メタル史において非常に重要なバンド。
「TO MEGA THERION」は1985年発表の1stフルレンス・アルバム。
ジャケットデザインは映画「エイリアン」のデザインで有名なH・R・ギーガー。
悪魔がキリストを握りしめてこっちを見つめている、
なんだかよくわからないけどとにかく「ヤバい」と一目でわかる絵で、
これをみてジャケ買いしたファンも多かったことでしょう。
私もこのあまりにもEVILなジャケ絵にシビれ、この絵のTシャツを買ったくらい(バイト先の女の子に「気持ち悪いTシャツ着てくるのやめて!」と言われた)。
LPレコードはダブル・ジャケットで、
中の見開きにもギーガーによる絵が。
そして、そのサウンドはとてもとても独自性にあふれていました。
VENOM大好きです!という感じの騒々しく疾走するメタルでありながら、
VENOMほどヘタではなく(ていうかドラムスは相当に上手い)、
VENOMよりもシリアスな雰囲気。
パワー・コードをブンブン鳴らすリフと吐き捨て型のヴォーカルは、
ハードコア・パンクっぽくもあるけれど、そこまで軽薄じゃない。あくまでもメタル。
ヴォーカルにもギターソロにもメロディはないけれど、リフがカッコよくキャッチーなので
一本調子にならないという、絶妙のバランスを保っていますね。
そしてこのヘヴィさ凶暴さクールさは、やはりバンドの中心人物だったトム・G・ウォリアーの
ヴォーカルのカッコよさがあってこそなせる業なんじゃないかと。
「UHH!」って言うだけで「あ、トムだ」とわかる。
当時、EXODUSやMETALLICAなどといっしょくたにされ
「スラッシュ・メタル」として語られていましたが、
EXODUSのようにカッチリした整合性のあるスラッシュ・メタルとは違って、
ひたすら騒々しい、ちょっとMOTORHEADっぽくもあるサウンド。
80年代は、エクストリームな音はなんでも「スラッシュ」と呼ばれていましたね。
いま聴きなおすと、このアルバムにおけるCELTIC FROSTは
速くてウルサイけど全然「スラッシュ・メタル」ではない。
完璧にオリジナリティを確立していました。
この路線を徹底して続けてくれなかったのが残念
さらに、ビジュアル的なイメージも恐ろしくカッコよかった。
VENOMの悪魔崇拝、アンチクライスト的な姿勢はどこかこけおどし的というか、
ポーズであることがかなりミエミエな感じでしたが、
CELTIC FROSTの場合は
サウンドやアルバムジャケットのデザイン、
メンバーのビジュアルなどが徹底してシリアスで邪悪。
こいつらはほんとにヤバい・・・と感じさせるものがありました。
前身のバンド、HELLHAMMERのころや、
「TO MEGA THERION」の前に出たEP「MORBID TALES」での
メンバーの格好は、ちょっと笑っちゃうけれども。
↑HELLHAMMER のEP「APOCALYPTIC RAIDS」の裏ジャケットの写真。トム・ウォリアー(右)は「SATANIC SLAUGHTER」、ベースのマーティン・エイン(左。故人)は「SLAYED NECROS」、ドラムスのブルース・デイには「DENIAL FIEND」というあだ名?がつけられています。いまとなっては恥ずかしい過去なんですかね。この作品でのサウンドはまるっきりVENOM。
↑こちらはCELTIC FROST「MORBID TALES」の裏ジャケ。マーティン・エイン(右)はまたヘンなカオしてますが、当時のスラッシュ・メタル系のバンドはみんなこういうのやってましたね。ドラムスのスティーヴ・プリーストリー(中)は「SESSION DRUMMER」とクレジットされているんですけど、だからってカオが写ってないのはあんまりでは。
しかし、「TO MEGA THRION」では一気にカッコよくなります。
ドラムスのリード・セント・マーク(左)はかなりのイケメン。
音楽的に(というか、メタルとして)もっとも充実していたころがビジュアルも一番カッコいい。
ビジュアルの変遷と音楽性の変化がリンクしていて面白い。
「TO MEGA THERION」の次のアルバム
「INTO THE PANDEMONIUM」は、
今でいうゴシック・メタル風のサウンドになり、
歌というより語りみたいな、それまでの吐き捨てではないふつうの声で
感情を込めたヴォーカルなどもやってみたり、
いろいろ詰め込んでみました、みたいな実験的な作品でした。
それはそれで好きだけど、まあ凄い変わりようでした。
メンバーのファッションはますます小ぎれいに。
その次の「COLD LAKE」ではまさかのグラム・メタル風に。
これはさすがに私も受け入れられなかった。
先に貼った「The Usurper」と同じバンドがやってるとはとても思えません。
冒頭の笑顔と、いかにもLAメタルっぽいドラムの叩き方がイライラさせます。
こればかりはCELTIC FROST大好きな私でも「F.O.A.D!」と中指を立てましたね。
「COLD LAKE」があまりにも不評だったためか、その次の「VANITY/NEMESIS」では
メタルっぽさを取り戻しますがもはや初期のエクストリームさは皆無に。
そして、1993年にいちど解散、
2001年に再結成、2006年には「MONOTHEIST」という復活アルバムを出します。
「MONOTHEIST」は今で言うところの「DOOMメタル」風で、
壮絶なまでにヘヴィな作品。夜中にヘッドフォンで聴けば、死にたくなること請け合いです。
私も「おお~、いいじゃん!」と思って気に入っていましたが、
残念ながらバンドは2008年にふたたび解散してしまいます。
なぜこのように音楽的な迷走をしてしまったのか。
真相は知りませんが、「TO MEGA THERION」で聴かせた
独自のエクストリーム・メタルをそのまま続けていたらなあ・・・
と考えると残念としかいいようがないです。
ともかく、デス/ブラック・メタルを語るうえでは
CELTIC FROST(とりわけ「TO MEGA THERION」アルバム)
は欠くことのできない存在であり、
未聴の方はぜひとも聴いておくべきだ、とおすすめしておきます。
ちなみに、中心人物のトム・G・ウォリアー(トム・G・フィッシャー)は
CELTIC FROST解散後、TRIPTYKONというバンドを結成し、
「MONOTHEIST」で聴かせたようなDOOMメタルをやっています。
カッコいいので、こちらについてはいつか記事にしたいです。