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こういうのを待ってた!工藤あやの「白糸恋情話」が最高のデキ!

山形県出身、「みちのく娘!」でも活動する工藤あやのの新曲「白糸恋情話」がさる1月26日に発売されました!

表題曲は師匠である弦哲也先生の作曲、なんでも彼女初の本格演歌らしい!

Amazon.co.jp 白糸恋情話

デビュー当時は、昭和っぽい懐かしい雰囲気の声で望郷歌を歌う野暮ったいポッチャリ娘、というイメージしか(それはそれで魅力的だったんだけど)なかった彼女も、作を経るにしたがってその歌唱も(そしてビジュアルも)圧倒的に進化。「恋微熱」を聴いたときにはその進化っぷりにビックリしたものです。その彼女の新曲ならば注目しないわけにはいかない。弦哲也先生の書いた本格演歌、となればなおさら。もちろん予約して手に入れました。遅くなりましたがその感想を。

弦哲也先生ならではのドラマティック演歌!

初期はさわやかな哀愁を漂わせる望郷歌、最近は歌謡曲寄りの雰囲気の曲を歌ってた工藤あやの。

7作目の今回は、ついに来ましたドラマティック演歌。弦先生、待たせすぎですよ!

ラジオでもすでに何度か聴いていましたが、CDの美しいジャケ写真を眺めつつあらためて聴きますと・・・いやあ猛烈にカッコいい。あまりに哀しい悲恋を描いた美しくもせつない曲。MVのデキも現時点での最高傑作では。

しっとりとした湿り気を帯びた美しい歌唱を聴くと、心を揺さぶられると同時に、さらに進化を遂げたなあ・・と感心させられます。これが売れないなら徳間ジャパンの販促担当が無能か、演歌ファンの耳が腐ってるかの二択しかありえない。

 

この曲のモチーフとなっているのは、金沢を舞台にした明治時代の小説「義血侠血」(泉鏡花作)。「白糸」はそれに登場する、見世物小屋で水芸を披露する太夫。

その白糸が、ふとしたことから知り合っただけの、法曹を志す若者、村越欣弥に恋をし、勉強のために東京に行きたくてもカネがないために行けない彼のために金銭的支援を申し出て、仕送りするから東京ヘ行って夢をかなえなさい!と彼に言う。彼は申し出を受けて東京へ行く。白糸は3年ほどは順調に仕送りをし、彼のほうもそのおかげで勉強に励むことができていたが、まさに文字通り水商売である芸人稼業、仕送りするカネに困るようになった白糸は約束を守るために奔走するも・・・・。その結果悲劇的な結末を迎えるお話。

 

とあらすじを書きましたが私も実は読んだことなかった。しかしこの曲を味わうためには小説を知る必要があると思い、買って読みました。現代語訳が見つからなかったのでAmazonのオンデマンドで文語文のままのやつを。

Amazon.co.jp 義血侠血

ただ、国文科卒でもなくたいした教養もない昭和40年代生まれの私にはちょっと難しい(活字が存在しなくて字を説明するためのおかしな説明が入ってたり)ので、正しく理解するために映画も見てみました。こちらはAmazonプライムの会員特典で見られた。いわゆる無声映画、活動弁士によるナレーション入り。昭和8年の映画。

Amazonプライムビデオ 瀧の白糸

画質は最悪でも入江たか子の美人っぷりは明らか。小説と映画、悲劇的結末に至るまでの経緯には若干の違いがある(映画の方が、白糸に同情が集まりそうな感じに脚色されていたり、人情にあつい白糸の人柄をあらわすためのエピソードなどが追加されてたり)けれども、悲しい結末は同じだし、そこに描かれる人間として大事なこと(正義や良心、義理や人情など)それ自体は改変されてないのでどちらかを体験すればOKでしょう。

まあ明治時代の小説ですから、ストーリー的にはご都合主義なところもあって突っ込みたくなることもあるんですけど、あまりにヒドイ(つまらないという意味ではない)結末で白糸が可哀そうすぎて読むのがつらい物語でした。そして、いつの時代も悲劇の大半はカネがない(もしくはありすぎる)ことから始まるんだなあ、と虚しい気持ちにも。しかし欣弥がもし金持ちだったら、白糸は欣弥の成功を願いつつ仕送りに精を出すという短い幸せな日々を送ることはできなかったわけか。

ともかく、原作を体験したうえで聴くと、「情けは情けで 返しましょう 命は命で 返します」とか、「待ちわびましたよ 晴れの日を」とか(晴れの日が同時にあまりに悲しい日に)、「幸せでしたよ 白糸は」とかいう歌詞の味わいが違ってくる。小説は文語が難しいだけですごく短くてすぐ読めるので、未読の方は機会があれば読んでみたほうがいいかも。

カップリングもいい味わいの曲

ちなみにシングルに収録されている「山形育ち」は同じ山形出身のシンガーソングライター、山口岩男のカバーだそうです。オリジナルを知らなかったけど、知らずに聴くと完全に工藤あやのの曲としか聴こえないというか、彼女にピッタリハマる曲。カップリングの甘酸っぱい哀愁曲「手紙」も良かったけれども、個人的には「山形育ち」のほうが気に入っちゃいました。

 

カップリング曲も含めて、このシングルはこれまでの最高傑作でしょう!「白糸恋情話」を丘みどりが歌ったならさらに格調高い圧倒的な慟哭演歌に仕上がったかもしれないけど、工藤あやのがしぼりだす哀しみにはなんというか、ものすごく壊れやすくて繊細なものを感じる。ちょっとしたきっかけで間違って悲劇へと突っ走ってしまった白糸がまさにそうであったのを表現するには、丘みどりのパワーあふれる歌唱よりも工藤の歌唱のほうがふさわしいのかも。

工藤あやのがついに唯一無二の独自のものを築き上げた、という感のある素晴らしい曲。ぜひとも大ヒットしてもらって、年末には念願の紅と白のステージに立っていただきたい!

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