ふだん「新譜」というものを熱心にチェックし追いかけることがなく、買うのはもっぱら安くなった中古盤、というスタイルで音楽に接している私であっても、「このバンドの新譜なら無条件に急いで買わなくては!」というバンドは少ないながら存在します。
そのなかのひとつがスウェーデンのヘヴィメタルバンド、ENFORCER。そのENFORCERの4年ぶりのニューアルバムが5月に出ていたのを、たいへん迂闊ながら知らなかった。5月にはBURNING WITCHESの新譜を買ってて→今週聴いたもの:2023年5月4日~5月10日、そのときにワードレコーズのサイトを見たはずなのに、ENFORCERの新譜の情報はなぜか見逃していました。
インターネットが普及して情報を得るのがとっても容易になったはずなのに、雑誌などを定期的に買うことをやめてからはこういうことが起こりがち。レコード屋さんから新譜情報のメールとかもらうんですけど、それもあまりに多すぎたりでいちいち開かなかったり。雑誌ならパラパラめくればその情報にぶち当たることになりますが、ネットだと同じページにズラッと情報が書いてあるのでないかぎり「パラパラ」するのが面倒くさかったりするし、あまりに情報が多すぎて必要な情報にたどりつかないことも多い。
メタルのブログ書いたり中古CDを商ってたりする身の人間がそんなことではいけない、と言われればそのとおりなんですけど、いまさら高いお金出して音楽誌とか買う気にならないんですよねえ。「BURRN!」誌も数年前にDUELのインタビューが載ってるのを偶然知って買ったとき以来いちども。しかも昨年に近所の書店が閉店しちゃったもんだから立ち読みすらもしてない。「YOUNG GUITAR」誌は興味深い特集や練習してみたい曲のスコアがあれば買ってますけど、本屋が近くにないとその頻度も圧倒的に減る。
それはともかく、そんなかんじだから大事な新譜情報を見逃すこともあるのです。ENFORCERの新作も先日になってようやくその存在を知り急いで購入!
「原点回帰」という触れ込みをみて超期待!
ニュー・アルバムのタイトルは「NOSTALGIA」。
なにやら意味深っぽいタイトル。そして日本盤帯には「彼ららしいアグレッシヴかつキャッチーな楽曲が並ぶ原点回帰とも言える傑作!」とある。
ふ~ん。「原点回帰」か。するとIRON MAIDENやEXCITERあたりからの影響を丸出しにしていた初期のころのスラッシュ寄りのスピード&アグレッションのスタイルに戻ったということか!
するとやっぱり、前作「ZENITH」の評判は悪かったんだろうか。セールスがどうだったのかは知りませんが、あまりよくなかったとしてもむべなるかな、という気はする。曲のクオリティはさすがだったとしても、LAメタル風からエピックメタル風までさまざまなスタイルの曲が揃っていながらもENFORCER「らしい」ピュアで一直線なスピード&パワーの曲が少なかった「ZENITH」アルバムを、諸手を挙げて歓迎するファンは少なかったんじゃないか。「イイんだけど、ENFORCERがこれやらなくてもいいよね」というのが正直なところだった人が多かったことでしょう。
私もそう考えたファンのひとり。しかし今作は「原点回帰」だというから期待しかない。ワクワクしながらCDをプレイ!
シンプルでキャッチーな楽曲で埋め尽くされていた
イントロに続く1曲目は初期のPRETTY MAIDSあたりがやってそうな、80年代北欧メタルっぽい曲。
おお~、いいじゃない。「ZENITH」では歌メロ重視で印象的なリフが少なかった気がしたけれど、今回はリフも歌メロもとにかくキャッチー。ライナーノーツによればこの曲のインスピレーションはPOKOLGEP(ハンガリーの正統派メタルバンド。「METAL AZ ESZ」は大傑作!今週聴いたもの:2020年11月19日~11月25日)からきているとオロフ・ヴィクストランドは語ったらしいけれども、この曲にかぎらず今作はそんなかんじの空気が全体に感じられる。POKOLGEPのような、小細工なし、シンプルかつキャッチーな正統派メタル。
↑続く「COMING ALIVE」は、これこれ、こういうのが欲しいんだよ!という、ENFORCERそのものな超スピードナンバー!いいね!
↑陰鬱な歌詞のヘヴィなバラード調の曲も用意されていて、けっしてスピード&パワー一辺倒にはなってないところはさすが。オロフもすでに40代後半だそうだが、私も50代になって人生は永遠ではないし遠くない将来必ず終わるということを意識することが増え、こういう歌詞は胸にグサグサ突き刺さってくる。
↑こちらもENFORCERらしさ満点。スペイン語で歌っているので歌詞の内容はわからない(国内盤にも訳詞はなし)けれども、メタル・アンセム的な内容らしい。なぜスペイン語?っていうのはライナーによれば要は「カッコいいだろ?」ってことらしい。たしかにスペイン語ってメタルとの相性がいいんですよねえ。そのへんのセンスはさすが。
素晴らしいデキじゃないか。さすがだ。「原点回帰」というわりには、初期には多かった、たとえば「Katana」みたいなIRON MAIDEN調の複雑な曲展開&ツイン・リードが炸裂するような曲はなくて、すべてがシングル・カットできそうな短くてキャッチーな曲になっている。その意味でいえばひょっとすると「原点回帰?話が違うじゃないか」と感じるオールドなファンもなかにはいるかも。
しかし彼らのような才能豊かな人たちが「原点回帰」を目指したからといって初期とまるっきり同じなことをするはずもなく、これは「進化」と言えるんでしょう。個人的には「FROM BEYOND」アルバムあたりのバランス感覚でやってほしいとも思うけれど、これは歓迎すべき流れでしょう!やれプログレッシヴだのテクニカルだのいう、「なんちゃらメタル」にウンザリしてる方は必聴の快作!