思い入れのある北欧メタル名盤を紹介する記事の続き。
こないだまでは80年代~90年代の作品について書きましたが、今回はもうちょっとあたらしめの作品について書いてみましょう。
地理的に「北欧」に入るのかよくわかりませんが、デンマーク領のフェロー諸島出身というバンド、TÝR。1998年に結成され。これまでに8枚のアルバムを発表しています。
初期のころはプログレッシヴなフォークメタルというスタイルで、フォークメタル自体がイマイチ好きでない私にとってはとっつきにくいものばかりだったんですが、パワーメタル寄りになってきてからはたいへん素晴らしい作品を連発しているバンドです!
初期作はプログレッシヴ&フォーク色が濃すぎてハードルが高い
「HOW FAR TO ASGAARD」
1stアルバム「HOW FAR TO ASGAARD」が出たのが2002年。
Amazon.co.jp How Far to Asgaard
フォーク・メタルマニアならイケるかもしれませんが、この1stはだいぶとっつきにくい印象。いや、民族楽器がノーテンキなメロディを奏でたりするあの典型的フォークメタルパターンはいっさいなくてサウンドは完全にヘヴィ・メタルではあるんですが、なんかムリヤリな感じの歌メロ(彼の地の民謡じたいがそんな感じなんだから仕方ないのか)でわかりにくいし、プログレッシヴな風味が濃かったり曲がムダに長かったり。いろいろつめこまれてて豪華、でもとっ散らかってるように感じられてしまう。ここで歌ってる専任ヴォーカルの人は今はいない人ですが、とくにヘタでもなく個性的でもない感じ。
民謡をブラック・サバス風にしてみました、みたいな1曲目とか、哭きのメロディが胸に刺さる3曲目とか、なかなか聴かせる曲もあって嫌いじゃないけど、フォークメタルが嫌いな私にはちょっと厳しい。
「ERIC THE RED」
続く2003年発表の「ERIC THE RED」。ここから中心人物であるギタリストのヘリ・ヨエンセンがヴォーカルを兼務。じつにいい声をしてる人。この人が歌ってるおかげで曲の魅力がマシマシになっている。
10曲中4曲が民謡をメタルにアレンジしたもの。バンド作曲のものも民謡テイストたっぷりだから、彼の地の人でなければクレジットを見なければどれがそうかはよくわからない。全体的には1stよりもメタル寄りに感じられるけれども、冗長なプログレッシヴ展開の曲もあって、あまり手を伸ばすことがないアルバム。デンマーク民謡だという「Ramund Hin Unge」のアレンジは素晴らしい。アルバムタイトル曲は退屈。
「RAGNAROK」
2006年発表の3作目「RAGNAROK」。
5分に及ぶ冒頭の序曲はやたらカッコよくて期待しちゃうんだけど、そのあとに続く曲の多くがやたら複雑な曲構成のプログレッシヴなメタルで、う~ん、それがドラマ性をさらに高めているかというとそうでもない気がするんだなあ。当地のトラディショナルっぽいメロディが満載の歌も日本人である私にはどうしてわかりにくい。クオリティが高いのは間違いないけど、このあとの作品に比べるとやはり手に取って聴く頻度は低くなる。
「LAND」
4枚目が「LAND」。2008年作。
なが~いチャントから入っていく序曲的な1曲目がめちゃめちゃカッコいい。2曲目はスカンジナビア民謡(とクレジットされている)のメタルアレンジで、個人的にはこういうのいらないというか、あってもいいけど少しにしてほしい・・・と思うんだけど、それも聴きなれてくると、勇壮で男前で力強い声の魅力もあって、その味が好きになってくる、というところもある。歌以外の部分はまぎれもなくメタルだし、このアルバムではキャッチーでわかりやすいパワーメタル的な曲が少しづつ増えてくる。1曲目がリプライズして始まる16分大曲「Land」は、前作までのプログレッシヴ曲のような余計な回りくどさがまだまだあるものの、わりとキャッチーな歌メロでドラマ性を盛り上げてくれるし考え抜かれた曲構成で、「長い」とは思いつつも最後まで聴かされてしまう。
5作目「BY THE LIGHT OF THE NORTHERN STAR」あたりからパワーメタル色が濃くなってくる!
5作目。「BY THE LIGHT OF THE NORTHERN STAR」。2009年作。
Amazon.co.jp By the Light of the Northern Star
このアルバムからキャッチーなパワーメタル曲が急増し、まわりくどい複雑な曲は減少。当地のトラディショナルなメロディが絶妙なバランスで溶け込んだエピック・メタルという感じに。フォークメタルマニアの方はともかく、欧米や日本のヘヴィ・メタルに慣れ親しんでいるフツーの人はこれ以降の作品から手をつけるのがいいでしょう!「By The Sword In My Hand」は「これこれ、こういうのが聴きたいんだよ!」と快哉を叫んだ曲!
キャッチーかつ勇壮、死ぬまで戦い続ける宿命を背負った戦士の哀愁があふれるメロディ。これこそがこのバンドの真骨頂・・・のはずなのに、4作目まではそれがイマイチ少なかった。それが5作目で増えて、次の6作目では満載になります!
「THE LAY OF THRYM」は漢メタルの大傑作
2011年発表の6作目。初めて日本国内盤も出た「THE LAY OF THRYM」。
これが現時点での彼らの最高傑作であると同時に、「漢メタル」の大傑作であると言っていいでしょう。北欧のトラディショナルなメロディを取り入れたメロディック・パワーメタル的な雰囲気になって、前作以上に聴きやすくなりました。ワールドワイドでたたかうためにはそうなることが必要だと判断したのか、そのへんはもちろんわかりませんが、それは間違いなく正解だったと思いますね。
哀愁のリフとクサい歌メロがカッコよすぎる1曲目の「Flames Of The Free」でさっそくノックアウトされる!
続いて「Shadow Of The Swastika」「Take Your Tyrant」とキャッチーかつ勇壮なパワーメタルが続きます。4曲目「Evening Star」はデンマーク民謡をアレンジしたらしいバラード風の曲ですが、民謡チックなところがあまり感じられず完全にメタルとして消化されてますね。このへんがこのアルバムが別格で素晴らしいところ。
5曲目「Hall Of Freedom」はこのアルバム中で最も好きな曲。まさに戦う漢による戦う漢のためのメタル!
7、8、9曲目と民謡を下敷きにした曲が続きますが、どれも絶妙に「民謡がとけこんだパワーメタル」に仕上がっている。フォークメタルにありがちな、メタルにフォークをとってつけたような感じは全然ない。それがイヤでTURISASとか聴くとどうしようもなく退屈に感じる私であっても、こういうフォークメタルなら大歓迎。そしてラスト、アルバムタイトル曲らしくこの作品を象徴するようなスピードあふれるドラマティックメタル曲「The Lay Of Thrym」できっちりと締めくくられます。
この作品はほんと素晴らしい。これを日本盤で出したSWITCHBLADEレーベルは残念ながらつぶれてしまったらしいけれども、こういうのがめちゃめちゃ売れたりしないってのがおかしいというか残念というか、どの世界でも同じでしょうがハイクオリティだからといってそれが売れるとは限らないんだなあ。
ともかく、彼らの最高傑作は?と訊かれれば、私は誰が何と言おうと「The Lay Of Thrym」を推しますね。まだ聴いてない方は手に入るうちに買って聴いていただきたい。
このあとの「VALKYRJA」(2013年)も「HEL」(2019年)もパワーメタル路線を続けてくれていて素晴らしいんですけど、そちらはまた別の機会に書くことにしましょう。「HEL」収録の「Far From The Worries Of The World」はダントツに超絶カッコいい曲なのでとりあえず貼っておきます!こういう曲を聴いたとき、私は「メタルってほんといいもんだなあ」としみじみと感じるのです。
あと、2020年のオーケストラとの共演ライヴをおさめたライヴアルバムも素晴らしいデキなのでそっちも必聴! そちらは以前に記事で紹介しました。→今週聴いたもの:2022年11月10日~11月16日 CD2枚とDVD1枚がついて超お買い得!オーケストラとの共演が「メタルにオーケストラをとってつけてみました」みたいになってない稀有な作品!
Amazon.co.jp A Night At The Nordic House (With The Symphony Orchestra Of The Faroe Islands)
といったところで、北欧メタルだのフォークメタルだのといった括りを抜きにしても、「THE LAY OF THRYM」は大傑作だし、それ以外のアルバムも(個人的には5作目以降を推すけど)買って聴く価値のある素晴らしい作品ばかりで、こういうバンドが世界的になってほしい、と願うばかりなのです。幸いにもどのアルバムも現時点では入手が容易なので、まだ聴いてない方はすぐに買うべし!