多国籍メロディック・デスメタルバンド、ARCH ENEMYの最新作が発売となりましたね。
タイトルは「DECEIVERS」。
長い歴史をもつバンドだけあって作品ごとに若干の作風の変化はあったものの、メロディックかつエクストリームな演奏に狂暴なグロウルがのっかり、そこへ哀愁のギターメロディがからむ、という基本スタイルはこれまで一貫していた彼ら。
私もその独特なサウンドにシビレ、そのスタイルを(「RISE OF THE TYRANT」あたりまでは)支持していましたが、ここ最近は「なんかマンネリ気味じゃね?」と感じていたので、今作も実はあんまり期待してなかった。
先日(ほんと申し訳ないけど)ちらっと立ち読みした某老舗メタル誌のレビューでは、やはりみんな手放しで褒めていましたね。クロス・レビューするんならひとりくらい批判的な意見の人間を連れてきて書かせたりしなきゃ意味ないというか、全員同じようにべた褒めなら大人数でレビューする必要ないのでは。
いずれにしろもはや老舗メタル誌のレビューなんぞよりもネット通販サイトのレビューのほうがいくらか信頼度が高いっていうくらいのもので、そんなものを鵜呑みにしてはいけない。私などはみんなが絶賛すればするほど、「ほんとうにそんなにイイのかな」と疑ってしまう。自分の耳で判断するべきです。そのためには買わなくてはならない。
で、買って聴いた感想をカンタンに。
カッコいい曲もあるし、ハイクオリティだとは思うが・・・
聴いてみますと、今回はオーケストレーションだのといったヘンな小細工はなくて、ARCH ENEMYの「らしさ」が詰まった作品、という第一印象をもちました。速い曲は少ないし、やけにシンプルな曲が多い(あれえ?もう終わっちゃうの?」みたいな消化不良感)のがちょっと引っかかるものの、トータルでは「いつものARCH ENEMY」のスタイルが貫かれている感じ。
↑1曲目「Handshake With Hell」はこのアルバムのハイライトと言えるかも。一部クリーン・ヴォーカルが使用されている。そこがなかなか印象的な感じで、クリーンで歌ったからといってメタルコアみたいに軽く感じられることもない。
いやいやいや、もう全編クリーン(たまに聴かれる、ガナッてるっぽいクリーン声)でやってもいいんじゃない?また後述しますがどう考えてもそのほうが表現の幅が広がる気がする。とくに今作ははっきりいって「メロデス」って感じのエクストリームな曲は少なくて、べつにデス声じゃなくてもいいのでは、って感じる曲が多かったし。
とはいうものの全編デス声の2曲目もカッコいい。サビの絶叫がカッコいい「Deciver,Deciever」。
↑この曲も「もう終わり?」ってカンジなんですが、ともかくここまで聴いて、なかなかいいじゃないか・・という印象を持ちました。しかし・・・・
聴き進めるにつれ、なぜか耳の右から左へすべて抜けて行っちゃう感覚を覚えてしまう。それは「WAR ETERNAL」でも「WILL TO POWER」でも同じように襲ってきた感覚。どう聴いても後半の曲はつまらないとしか感じられなかった。
そして聴き終わったあとに、「あの曲カッコよかったからもう1回聴こう!」っていうふうにはならない。たしかにカッコいい曲もなくはなかったけど、CDのスキップボタン押してその曲にたどりつく、っていう作業をしてまで繰り返し聴こう、っていう曲がない。
曲がシンプルなわりにはリフだけでひきつけられるくらいの印象的な曲がないとか、とくに感動しちゃうようなギターソロとかがない、っていうのもあると思うんですけどね、最大の原因はやっぱり、デス声と美しいメロディのコントラストで聴かせるっていうスタイルの限界を感じるってところなんじゃないかな~と。これ言ったら身もふたもないんだろうけど。最近だとAMON AMARTHなんか聴いてても同じように感じますね。ひたすらわめくだけのデス声にくっついてくるのがたいしたことない退屈なリフやソロだとひたすら平板に聴こえてしまう。これが「耳の右から左へ抜ける」原因なのかも。
アンジェラ・ゴソウよりも無機質、メカニカルな感じのアリッサのデス声が嫌い、ってのもひとつの要因かもしれない。たしかにド迫力、人間業とは思えないブルータルさだが・・・。
デス声でしか表現できない世界ってのがある、ってのは重々承知しているけれども、今作を聴いてると「マイケル・アモットはほんとにこれで満足してるのかなあ?」という気しかしない。アリッサは素晴らしくカッコよくて力強いクリーンヴォイスを持ってるんだから、それを最大限に駆使すればもっと強力で美しいメタルを表現できるんじゃないのかなあ。
「Into The Pit」のカバーは・・・
ARCH ENEMYの作品を聴いて、デス声ヴォーカルの限界をひときわ顕著に感じるのは、お約束のように入ってるカバー曲を聴いたとき。
JUDAS PRIESTの「Breaking The Law」のカバーを聴いたときも、PRETTY MAIDSの「Back To Back」を聴いたときも、「なんだこりゃあ」と殺意を覚えましたが、とにかく「ヘヴィなアレンジでデス声で歌っときゃあそこそこカッコよくなるだろ・・」みたいな安直さがにじみ出まくりで大嫌いなものばっかり。カバーはサービス、オマケなんだから文句言うのは間違ってる?いやいやそんなことはないでしょ。それを楽しみに買う人だっているんだから。
今回もロブ・ハルフォードが歌うのがオリジナルなFIGHTの「Into The Pit」がカバーされてる。ひょっとしてオリジナルのロブのようにアリッサが金切りクリーン声でシャウトしてたりするのか!?と思って期待したら、やっぱりグロウルで歌っててガッカリしたのです。
いやいやいや、この曲はロブの血管切れそうな超音波シャウトが聴きどころの曲だったでしょ。ここはアリッサがガナリ気味のクリーン声でシャウトすれば絶対カッコよかったのに。ファンが「Breaking The Law」のカバーはクソだった、ってちゃんと文句言ってればこんなことにはならなかったかもしれないのに。こんなカバー要らんよ。
そんなふうに「グロウルではカッコよくない」っていうメタルだってあるわけだ。あるときまでのARCH ENEMYはまさに「グロウルだからカッコいい」っていう曲ばっかりだったけれど、今作はなんか「グロウルではイマイチ魅力が発揮されない」っていう曲が多いような気がして、すると平板なデス声ヴォーカルでは不満になってきちゃう。
マイケル・アモットはグロウルにこだわりがあるらしいけれども、このへんで考え直したほうがいいんじゃないか。せっかくクリーン声でも超強力に歌えるアリッサという人がいるんだから、メインはクリーン声、ここぞというところだけグロウル・・にしたほうが、もっと美しいメロディック・メタルになるのでは。それじゃあARCH ENEMYじゃない、ってことになってしまうのか。そんなことないと思うけどなあ。
まあグロウルがどうのだのという話は抜きにしたとしても、ほんとに「カッコいい~!」と震えるようなことがあったならば何度もリピートして聴きたくなるもんですけど今作も残念ながらそういう衝動に駆られることはなかった。ていうことは、悪くなかったけどそんなに凄くない、ってのが私の正直な感想ってこと。
曲がシンプルっていう点では「ANTHEMS OF REBELLION」あたりに近いのかな、っていう気もしたんですが、そっちにはシンガロングしたくなるキャッチーさが詰まってたのに対して、今作はそれほどのものはないかな、と。だって何べん聴いても覚えられないのばっかりなんだもんなあ。
そういうわけで今作のCDもおそらくラックの肥やしになりそう。いやハイクオリティの作品ではあるけれど、折に触れて手が伸びるのはこのアルバムじゃない、っていうだけ。